さくら色
原作:桜野みねね先生 文:クロロ


 桜が舞う。

 何かすっと心から離れてしまいそうになる。

 いつも何気なく見ている風景が急に懐かしくなるような・・・。


 周りにはシャオもルーアンもキリュウもフェイも・・・。

 みんなが俺の周りで楽しそうに笑ってくれる。何が大事だとか、何が足りないとか、みんな忘れてしまいそうになる。

 このままこの状態がずっと続けばってつい無責任なことを考えてしまう。

 あの日シャオと約束した。「守護月天の運命を変えてみせる」って、そこには強い気持ちがあった。

 何か自分にもできることがあるって、きっとシャオをその呪縛から開放できるって信じていた。だけど・・・。


桜が舞っている。花びらがいい香りを運んでくる。風で揺れる木の音が妙にやさしくて、

すっと目を閉じたくなる。花見なんて久しぶりだな〜ってついのんきなことを考えてしまう。

「太助様、どうかしましたか」

シャオの声で我に返る。

「いや、なんでもない。なんか花見もいいもんだなと思って」

無理に笑顔を作って、ごまかそうとした。

「すごいにぎやかですね。お花見るのに何でこんなに人が集まるんですか」

ちょうど桜も満開で、人があふれかえっている。確かに花見の風習がない人が見たらかなり奇妙に映るかも知れない。

「まあ、花を見るというよりわいわい騒いだり、飯を食ったりするもんなんだよ。ルーアンを見ればわかるけどさ」

さっきから、シャオが作ってくれた弁当を手当たりしだいに食べているルーアンに白い目を向けて言った。

「主殿は、よく花見をやるのか」

キリュウが横から顔を出してきた。キリュウには春の気候でも暑いらしく、服をパタパタやっている。

確かに今日はいい天気だった。空には雲ひとつ無くって、いつもより空がずっと広く感じる。

「よくじゃないけど、那奈姉と前に一度行ったことがある。あの時はまだ俺、小さくてあんまり覚えてないんだけど・・・」

そこで口を閉じた。でもひとつだけ忘れられない記憶があった。

「たー様、どうしたの」

いつの間にかルーアンも話を聞いていた。フェイは、聞いているのか聞いていないのか、ずっと空を見上げている。

「いや、ちょっとあのときのことを思い出してさ」



     あれは俺が7歳くらいだった気がする。何で那奈姉が俺を花見に誘ったか分からなかった。

二人で行く花見なんて、なんだかさびしくなるだけだと思った。

だけど、人知れず那奈姉が真剣で、それで仕方なくついていくことにした。

風がすごく強くて、那奈姉の手をずっと握っていた気がする。

「花見さぁ。一度家族みんなできたかったんだけどねぇ」

突然、那奈姉が言った。

「太助は、花見一度も来たこと無かったから一度連れてきてあげたくてね。

 まあ、二人だけじゃつまらないかもしれないけどさ」

そう言って、小さく笑った。


 その後俺がなんて言ったかまったく覚えていないけど、那奈姉がなんだかさびしそうに見えたことだけは覚えている。


 子供ながらに桜ってなんてきれいなんだろうと思った。とっても大きくて、両手いっぱいに花を抱えている。

母さんもこんな感じの人だったのかなって、なんとなく考えてみたりした。

でも、そう考えたら、妙にその桜がほしくなって、端っこの、花がついている枝を折ろうとした。

「太助、そんなことしちゃだめ」

那奈姉にとがめられた。でも、だめだって言われると無性に欲しくなって、俺はとうとう泣き出してしまった。

「何でだめなの。何でだめなの・・・」

何度も何度も繰り返し叫んだ。そしたら那奈姉がそっと頭に手をのせて言った。

「枝を折っちゃったら、その枝は死んじゃうんだよ。欲しいからって、切り離してしまったら、

 その枝がかわいそうだよ。一生懸命自分の宿命を背負って、がんばっているんだからさ」

那奈姉はそう言いながら、遠くのほうを見ていた。

「しゅくめい?」

「そ、自分のやらなくてはいけないことを精一杯やりましょうってこと。

 木だって、人だって必ずそういうものがあって、だから一生懸命生きぬこうとしているんだと思うよ。

 枝を折らなくてももっと太助が納得する方法があると思うな」

那奈姉は、俺の顔を覗き込んでにっこり笑ってみせた。何だか心がすごく温かくなって、俺は枝を折るのをやめた。



 ここまで言って、俺は口を閉じた。「宿命」という言葉がずっしりと俺の心に重く残っていた。

 止めどもなく散る桜を見て、一番大事なことって何なんだろうって考えてみた。

 ルーアンもキリュウもフェイも、そしてシャオも何も言わなかった。ただみんな黙って、桜が散っていくのを見ている。

 いつの間にか、日が傾き始め、うっすらと空が赤みを帯びてきた。

 大勢いた人達も少しずつ家に帰りはじめ、夜が近づくとともに辺りが静かになっていく。

 「俺、ちょっとそこら辺歩いてくる」

俺は立ち上がった。なんだかここにいるのがはばかれるような気がした。

「太助様、ちょっとまってください。・・・私もご一緒していいですか」

シャオが立ち上がって、俺を見つめてきた。何か切ないような、悲しいようなそんな瞳だった。

「ああ、一緒に行こうか」

俺は、シャオを見つめ返して、そして歩き出した。


 「・・・」

しばらく俺はシャオと無言で歩いていた。桜並木が、ライトアップされて美しく光って見えた。

もう夜のにおいがしていた。なんだか落ち着くようで、不安になるようなそんなにおい。

歩いている途中いろいろ考えた。

シャオにとって一番いいことは何だろうとか、俺が望むことはなんだろうとか。がらにも無く真剣に。

風はいつの間にか止んでいた。人はもうほとんどいなくなっていた。コツコツってシャオの靴の音だけが、

二人の時を刻むかのように響いている。

「太助様、もう悩まないでください」

シャオがぽつりと言った。

「私、太助様がいつも悩んでいるの知ってます。とっても辛そうで、私・・・」

シャオは声を詰まらした。シャオの言いたいことはよく分かっていた。

でも、これは俺の、主としての宿命なんだ。俺は、シャオの方を振り返って言った。

「俺は考えないといけないんだと思う。俺にはその責任がある。誰かを本当の意味で幸せにするのって、

 とっても難しいことなんだって分かった。俺、シャオがいつも笑っていられるようにいろいろ頑張ってみるよ」

それが俺の今の正直な気持ちだった。

シャオにいつも守られていたから、今度は俺が守る番だって思った。だけど、シャオは首を振った。

「違います。私、太助様と一緒にいられるだけで幸せなんです。

 いろんなこといっぱいお話したり、一緒に笑ったり、それだけで私とっても嬉しいんです。

 だから、私のことで自分を縛らないでください。それが私は一番つらいんです・・・」

シャオは目に涙を浮かべていた。一番させたくなかった表情を俺がさせてしまっている。

その涙が俺に一番大事なことを語っていた。俺は本当に馬鹿だ。

一人で背負いこむみたいにかっこつけて、シャオの気持ちにも気づいてやれなかった。

シャオの気持ち、何でも分かっているつもりになっていた。いつの間にか、俺は勘違いをしてしまったようだ。

幸せって誰かに与えたり、もらったりするものじゃない。那奈姉が言いたかったことって・・・。

「ごめんな、シャオ。俺、全然分かってなかった。一番大切なこと、もう忘れたりしないから」

俺はシャオのぬれた目をじっと見つめていた。そして、誓った。二度とシャオを悲しませないと。

「・・・はい」

シャオは涙を手でこすりながらそう言って笑った。


俺は空を見上げていた。もうあたりは真っ暗になっていた。

「あ、シャオ、月が出ているぞ」

そこには、もうちょっとで満月になりそうな月が、夜空を明るく照らしている。

「本当、きれいです」

シャオもうれしそうに夜空を見上げている。

いつの間にか、また風が吹いていた。シャオはなびく髪を押さえて、そしてもう一度、俺を見つめて、にっこりと笑った。

                                                      終わり




あとがき


 クロロです。お初です。

 ちょっと興味本位で書いてしまいました。

や〜でも、小説って書いてみるとホントに難しいなって思いました。

どうですかね。自分でも出来栄えがよく分かりません(笑)

感想や意見など言ってくれると、参考になってすごく助かります。

第二段書けるか分かりませんが、よろしくお願いします。





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