雨の日の放課後 傘編
原作:桜野みねね先生 文:夢影月・沙葉流


その日も、なんとなく憂鬱だった。朝起きて、朝食を食べ、学校へ行き、

   勉強をして、塾に行く。毎日がそんなことの繰り返し。つまんない。

   かといって他にやることはないし、サボるとか、そんなことをする度胸もない。

   乙女ちっくとか云ってる人もいるけど、あたし、ホントは違うんだよね・・・。

   もっと刺激が欲しい。もっと違う世界へ行きたい、って、いつも思ってる・・・。


   「香織ーっ!おーい、待ってよぉー!!」

   「・・・え?あ、ゆかりん。おはよ♪」

    殆ど人の居ない通学路。学校まであと2,3分と云った距離で香織は呼び止められた。

   「あー、もー!やっと追いついたぁ。香織ってば、何回も呼んでんのに

    全然気づかないしさぁー。あー、疲れたぁーっ。」

   大きく深呼吸をして、香織を悪戯っぽく細目で見る。

   「ごめんごめん、ちょっと考え事しててさ。」

   「ふぅん・・・なんか悩み事?」

   そんなことを云いながら、あたし達は肩を並べて歩き出した。

   「ん〜、悩みってほどじゃないよ。」

   「ホントにぃ?・・・ならいいけど・・・」

   まだ少し探り口調で云う。あたしは大袈裟な笑顔を作る。

   「ね、本当に大丈夫だからさっ!」

   「・・・うん。でもっ、なんか悩みとかあったらあたしに相談してね!」

   「わかってるって!」

   ゆかりんが居るから、あたしこうしていられる。

   友達の存在って、すごく大きいものなんだって、最近思った。

   なんでかなぁ。泣きたい時に一緒に居てくれて、怒りたい時に愚痴聞いてくれて、

   笑いたい時に素敵な笑顔を見せてくれる・・・そんな、本当に当たり前のことが、

   凄く嬉しい。あたしって我儘だなぁって、自分でもわかってるのに直せなくて、

   それでも一緒にいてくれるゆかりんに、心の底から感謝してる。

   キーンコーン・・・

   予鈴が鳴る。

   先生が生徒を誘導する。

   「ほらぁー、予鈴だぞー。急げ急げ!そこの1年生!!」

   ゆかりんがこっちを向いて、とびっきりの笑顔であたしにこう云う。

   「香織、行こっ!」

   「うんっ!!」

   あたしたちは校門をくぐった。



   「げぇー、曇ってきたなぁ・・・」

   掃除の時間、男子のどちらかがそんなことを言った。

   理科室って結構広い。男女2人ずつなのに男子がやらないからもっと大変。

   「うわぁ・・・なんだよ、今日雨降んのかよ。」

   あたしもなんとなく窓の外を見る。

   少し汚い感じの紫、所々色の違う灰色。そんな空だった。

   「あーあ、今日部活無ぇな。俺黒板書き換えてこねぇと!」

   「まじ?あ、じゃあ俺もいくわ。掃除めんどくせぇし。」

   「愛原ー、俺達ちょっと部活黒板書き直してくるわ。」

   云い終わったか云い終わらないか分からないうちに、2人は駆け出していく。

   「あ・・・ちょっ・・・」

   あたしが何か云う暇もなく、理科室にはあたしと、もう1人女の子だけが残った。

   ちょっと緊張・・・。でも、この子と話してみたかったような気もする。

   「あの・・・粟谷さん・・・」

   粟谷 和音(あわたに かずね)はあたしのすぐ後ろの席。

   特別嫌ってはいないけど、あんまり好きなタイプじゃない。

   大人しいって云うか、あたしとは根っから違う感じ。

   「・・・はい・・・?」

   「あ・・・あのさ・・・」

   なんか言葉が詰まって出てこない。

   ヤバい・・・このままじゃ気まずいなぁ・・・。

   なんか会話を繋げないと・・・。

   「やんなっちゃうよね。男子ってば、真面目に掃除しないし。」

   ふっと笑ってそう話を切り出したのは、粟谷さんの方だった。

   あたし、正直びっくりした。でも、少し安心してる。

   「だよねー。ただでさえ人足りないってのにさ。」

   「そうそう。めんどくさいからやりたくないのはわかるけどね。」

   「あはは。あたしもホントはやりたくないけどさ。」

   「やっぱり?あたしも。理科室広すぎ。もー嫌ぁ。」

   そう云って、粟谷さんは自分の持っていた箒を手放した。

   カターン―――――・・・

   冷たくて、固い音がした。

   心地好い。煩いとは感じなかった。

   そして、自然とあたしの箒も、あたしの手を離れた。

   カターン―――――・・・

   「・・・あはは。愛原さんって、もっとキャピキャピかと思ってた。」

   「あたしも、粟谷さんってもっと静かだと思ってたぁー。

    それにしても、『キャピキャピ』は死語でしょー。」

   「あは、そうだね。」

   あたし達は顔を見合わせると、2人同時に笑い出す。

   「あはは。あ、そうだ、粟谷さん。」

   「ん?なに?」

   「和音って、呼んでいい?」

   あたしはいきなり話題を変えた。

粟谷さんは、少し驚いた顔をして、続けてこう云った。

   「いいよ、香織。」

   ・・・なんか恥ずかしいような、ちょっとフクザツな気持ち。

   だけど、なんか嬉しい。

   「ありがとー。」

   そして、あたし達は残り3分を切った掃除時間をお喋りに使うことにした。

   和音が、ふと窓を眺める。ううん、窓の外を眺める。

   真っ直ぐに。ひたすら真っ直ぐに。

   「どうしたの?なんかあった?」

   切ないような瞳。雲の色に染まっていくみたい。

   「あたしさぁ・・・こういう空、嫌いじゃないんだよね。

    むしろ好き。雲ひとつない空より、大好き。」

   「・・・へぇ・・・。どうして?青空のほうが綺麗じゃん。」

   「・・・哀しいこととか、寂しい気持ちとか、そういう気持ち、

    全部受け止めてくれるような気がするの・・・。」

   あたしは、ゆっくりと窓に視線をうつす。

   ・・・妙に納得。なんでかな。自分でも凄く不思議。

   「そうだね・・・。」

   そのまま窓を見ていた。永遠に見ていられるような気がした。

   吸い込まれそうな空。別の視点から見るだけで、こんなにも穏やか。

   「あ、そろそろ掃除終わるね。教室、戻ろうか。」

   「え・・うん。そうだね。いこっか。」

   立ち上がり、理科室をでる。2人並んで廊下を歩き出す。

   「あ、鍵忘れた。先行ってて。」

   和音がそう云って理科室に戻ろうとする。

   「ううん、ここで待ってる。」

   「すぐ戻るからぁ!」

   後ろ向きにあたしに叫ぶ。

   理科室の戸を開いた時、和音の動きが止まった。

   和音が何か呟く。でも、チャイムの音と、帰ってきた男子の叫び声のせいで

   あたしには聞こえなかった。

   「お待たせーっ。」

   本当にすぐ、和音は戻ってきた。

   そして、男子の方を向いて、腰に手をあてて云った。

   「あ、こら男子ー!って怒りたい気分なんだけどさ。

    あたし達も掃除、途中でやめちゃった。」

   ね、と云ってあたしのほうを向く。その笑顔か眩しい。

   「そうそう。今日は掃除してないんだよねー。」

   「なんだよ、お前らしなかったのかよー。」

   「俺らの班、サボり魔の集まりじゃねぇの?」

   4人であははと笑う。

   あたしは今まで勘違いをしてたのかな。

   自分の見てた世界が、少しだけ広がった感じ。

   担任の足音。もうすぐ帰りのホームルームが始まる。



   放課後は暇だ。

   あたしはあいにく、部活には入っていない。

   でも何故か今日は少し気持ちが楽。なんでかな。

   そんなことを考えながら、軽い足取りで昇降口へ向かう。

   靴を取り出し、上履きを入れる。

   昇降口を出る。

   すると、香織の頬に冷たい雫がぽつんと流れた。

   「あ・・・雨・・・」

   和音が云ったのと同じセリフ。

   そっか、理科室、窓真っ直ぐだもんなぁ。

   「雨・・・かぁ・・・。どうしよ・・・。傘持ってきてないや。」

   空を仰ぐ。受け止めてくれる空。

   もう少しこのままでもいいかな・・・。

   そして、あたしの運命を変える人と出会う。


   「はい、この傘つかいなよ。」

                                終わり




   アトガキ

 今日和。紅の夢影月です。

 前回の小説よりはマシになったのではないかと思われます。。。(ぇ)

 粟谷和音と云うのは勝手に作ったキャラです。

 あの人大人しいよね、とか、あたしとはタイプが違う、とか、

 それは実際話してみるまでわからない事なんですね。きっと。

 今回香織をメインに置いたのは、やはり彼女にとってあの日太助と

 出逢ったのはまさに運命的であったと云う事から。。。(日本語変。。。)

 で、和音の考え(曇った空も好いみたいなの)を香織が知れた事、

理解できた事もまた運命なのではないでしょうか。


  題名に傘編とありますが、決してこれは続きがあるとか

 そう云ったものではありません。某友人が「かっこいいから」と云う

 理由でつけたものです。。。かっこいいのだろうか。。。(微妙。。。)


  もしまた好い話が思いついたら取り敢えず手当たり次第書いてみます。

 いつか纏めて皆様に読んで頂けると嬉しいです(その為にはまず専用PCだ)

 皆様もですが、自分も楽しめてこその小説だと思ってます。

 (かと云って自分ばかり楽しめる内容は嫌なので、

そこらへんの見極めみたいなのを養っていきたいです***)

 自分がつまらないと思うものをお見せする事はできませんからね^^

 (そう云ってボツった作品がひぃふぅみぃ・・・)


    最後に。

 小説のネタとか、とにかくバックアップしてくれたサークルの皆、

 差し入れくれた友人、アドバイス下さった色んなサイトの皆様、

 離珠様、そして、此の作品を読んで下さった貴方へ・・・


                  心から有り難う


2004.12.28  紅★夢影月*沙葉流



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