絵本
原作:桜野みねね先生 文:赤丸ジュン


「太助様。この本、買ってもいいですか?」

「うん。いいよ」

 シャオは、太助の持っているかごに本を入れた。

 ここはデパート。今日は、太助とシャオと翔子の三人で買い物に来ていた。

 何故行くことになったのか、それは昨日のことだった。



「おい、七梨!」

 翔子が、教室の席に座っている太助に向かって来た。

「何、山野辺?」

「あのさぁ、明日なんだけど、デパートに買い物に行かないか? シャオも連れてさぁ」

 太助はその翔子の言葉に、何かあるような気がした。

「あのさぁ、お前がそういうこと言うの、珍しいよな…どうしたわけ?」

「いやさ、明日デパートで大売出しがあるんだよね」

「それで?」

「ああー。それでさ、お前とシャオもどうかと思って…」

「断る!」

 太助は、はっきりとそう答えた。

「どうして?」

「なんで、俺とシャオが行かなきゃいけな…」

「太助様、私を呼びました?」

 翔子と太助の前にシャオが現われた。

「いや、あのね…山野辺が一緒にデパートに来て欲しいんだって」

「じぇぱぁーと?」

 そう、このときのシャオはデパートに行ったことがなかったのだった。

 シャオは、いつものハテナ状態になり、頭を抱えた。

「シャオ・・・大丈夫?」

「はい。元気ですよ」

「いや、そうじゃなくて」

「シャオ。デパートって言うのは、スーパーよりも大きくて買い物ができる所なんだ」

 太助とシャオが話している間に、翔子が口を挟んだ。

「スーパーより大きいのですか〜! そのじぇぱぁーとって!!」

「いや、だからデパートね」

 太助の言葉は、シャオには聞こえなかった。

 シャオはデパートに憧れを抱いて、デパートの想像までしていた。

「はぁ〜、シャオ…」

「決まりだな。明日の二時に来いよ!」

 翔子はそう言っていたが…

「山野辺の奴、来ないじゃないか――!!」

「太助様。翔子さんきっと忙しかったんですよ」

 シャオは、翔子が忙しくて来られないと思っているが、太助には分かっていた。

 翔子に嵌められたということを。

「はぁ〜…じゃ、行こうか、シャオ」

「はい!」

 太助はシャオを連れて100円ショップにやって来た。

「わぁ〜、すごい!! 色々な物があるんですね」

「まぁね」

 太助は思った。確かに翔子に嵌められたけど、シャオと二人きりになれたのはありがたかったと。

(ま、たまには山野辺に感謝するか)

「太助様〜!! これいくらですか〜?」

「100円」

「え――!! これが100円ですか〜!! じゃ、これは?」

「いや、100円」

「これは?」

「だから100円…」

「わぁ〜! みんな100円なんですね〜」

(そういえばシャオ、100円ショップ知らないんだよな…)

 シャオは、100円の安さに驚きながら喜んでいた。

 始めは買うこともできなかったシャオも、今ではお金も使えるようになった。

 シャオは、もうすっかりこの世界に慣れているのを、太助は実感するのだった。

「太助様。買いましたよ」

「なら、帰ろうか」

「はい」

 二人は、仲良く話しながら家に帰っていた。

 その時の太助は、暖かい表情でシャオに笑いかけていた。



 シャオは家に帰るとソファーに座り、さっき買った本を読み始めた。

(何を読んでるんでしか? シャオしゃま)

 支天輪の中から声が聞こえた。その声の主は、離珠だった。

「あ、離珠。この本?」

(しょーでし)

「あのね。この絵本はね…人魚姫っていうの」

(にんぎょひめ? なんでしか、それ?)

「離珠も聞く?」

(聞きたいでし)

 離珠がそう答えると、シャオは人魚姫の絵本を開けた。

 そこに描かれていたのは、美しい人魚姫。

「じゃあ、読むね」

 シャオはそう言うと一呼吸付いて絵本を読み出した。



  ある海の中に美しい人魚姫が住んでいました。

  その人魚姫はある日、人生で始めての運命の男の人に出会うのです。

  その男の人は、王子様。 船の上に乗っていました。

  その王子様は、船に乗って行ってしまい、人魚姫は一目しか見ることができませんでした。

  人魚姫は、その王子様に会いたいと心から思ったそうです。




(ぷわぁー)

 離珠は、顔を真っ赤にしていた。

「あら、離珠たら顔が真っ赤」

(シャオしゃま。次を読んで欲しいでし)

「うん。じゃあ、次読むね」



  人魚姫はその日から、あの日出会った王子様を忘れられなくなりました。

  人魚姫はどうしても会いたいと思いました。 

  人魚姫は思い悩んでいると、占い師の人魚のおばあさんに出会いました。

  そのおばあさんは、人間になることが出来る薬を、人魚姫に渡しました。

  その薬を人魚姫は飲み、人間になることが出来たのです。




(やったでし!!)

 離珠は、心から喜んだ。それを読んでいるシャオも心から喜んだ。

「人魚姫、どうなるんだろうね?」

(気になるでし、次でし!!)



  人魚姫は人間になると、色々な町を回って王子様の手がかりを探しました。

  人魚姫はある町で、王子様がこの町のお城に住んでいるという話を聞きました。

  王子様を見つけることが出来て、人魚姫はとても喜びました。




 シャオが次を読もうとした瞬間、『し』の文字で止まってしまった。

(どうしたんでしか? シャオしゃま…)

「離珠…次、聞きたい?」

 シャオは悲しそうに、そう離珠に告げた。

(聞きたいでし)

「じゃ、読むね」

 シャオは、話を続けた。しかし、涙を流していたのだ。



  しかし王子様にはお姫様がいて、人魚姫は王子様に会うことが出来ませんでした。」

  王子様にお姫様がいることを知った人魚姫は…泣きながら海に飛び込み…




 シャオは言葉を詰まらせた。 シャオにはこれ以上読むことが出来なかったのだった。

(シャオしゃま…)

 離珠も涙を流しシャオを見た。二人とも本当に悲しい気分になってしまった。

 二人が泣いていると、太助がやって来た。

「どうしたんだシャオ!!」

 太助は、本当にびっくりした表情だったが、絵本を見て、そうかという風に、胸をなでおろした。

「太助様。私、私」

 シャオは、涙目をしながら太助の胸の中で泣き続けた。

「大丈夫だよ」

「え?」

「俺は、シャオと絶対に離れないから」

 その太助の言葉は、本当に温かくお日様のようだった。

 シャオは、その言葉を聞いて少しだけ嬉しい気持ちになった。

「シャオ元気でた?」

「はい、ありがとうございます。太助様」

 シャオは、嬉しそうに微笑んだ。



おわり




あとがき




どうでしたか?「絵本」は、結構悲しいストーリーを書いてしまったような気がします。

感動してくれた人は嬉しいです。 かぐや姫と同様、人魚姫も悲しいですね。

感動のストーリーを書いたのは、3回目です。楽しんでもらえると嬉しいのですがね。

感想・批判、どしどし受け付けますので、どうぞよろしく。

読者のみなさんに感謝します。




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