ある夏の日の思い出・・・
原作:桜野みねね先生 文:沙葉流・琴葉


 その日は、久しぶりに暑くなって、いいかげん外で走り回る小学生に
少なからず怒りの類を感じている太助は緑のノースリーブに膝までの薄手の
深い藍色のズボンというラフな格好でソファに寝転んでいた。
さっき、12時を時計が刻んだ。そろそろ腹減ったなぁ・・・。
クーラーが涼しい。今外に出たらきっと死ぬだろうなぁー・・・。

「あー、なんでこんなに暑いんだぁー?」

誰が居るわけでもない。ただ自分だけがそこに居て、そっと、小さく
ごく普通の少年は独り言として呟いた。しかし、その言葉に扉を開けて
返事が返って来た。――――――――――ガチャ――――――――――

「どうかしましたか?太助様。」

太助は、目を点にし、それからソファから顔を真っ赤にして勢い良く
飛び起きた。そして、その声の主を見て、自分の鼓動が早くなるのを
頭の隅でとらえた。

「え・・・いや・・・なっ、なんでもないっ・・・・よ・・・
あ、それよりさっ、シャオ、どうしたんだ?」
(どーしたってことないよなぁ・・・一応シャオの家でもあるんだし・・・)
「お昼ご飯を作ろうかなと思いまして。お部屋暑いですか?」
「いや、いいんだ。うん。外は暑そうだなぁーと思って・・・」
「そうですね。今日はとっても暑くなりますって田中さんが仰ってましたわ。」
 ※田中さん・・・近所のおばさん。

 全世界で一番熱いと思われる自分の頬を必死で隠しながら、夏らしい
薄紫のノースリーブのワンピースを着たシャオを視界の右端に入れる。
ベルトは、同じ素材で同じ色の細い紐だ。それがくびれを強調して、
いかにも女性らしいところに目が行く。丈が短いので、シャオの細く白い
足があらわになっているのも、健全な男子中学生としてはドキっとする。

(あー、どーして俺はこう色気だなんだってことしか頭にないんだぁぁぁ!!)

 そんな太助の思考が顔に出ていたので、シャオはとても心配そうに
手を胸のあたりで組む。その姿が余計に太助を刺激したのか、太助は耳まで
赤くしながらシャオに悟られないように落ち着いた声でこう言った。

「あ・・・あ、俺ぇ・・・宿題あるから・・・うん。メシできたら呼んでよ。」
「わかりましたわ。今日は和食で、鮭を焼こうと思ってます♪」

満面の笑みを太助に向けると、シャオは台所ののれんに隠れてしまった。

「・・・ちょっと頭冷やすかぁー。」

ボリボリと頭をかきながら、太助はリビングの扉を開けて廊下に出た。
―――――――――――バァンッッ!!!!!

「おーっす!あいっかわらずシケた面してんなぁ、七梨っ!!」

 死ぬほど元気な声で他人の家の玄関を遠慮なく開けるのは・・・
太助は呆れた目で音のしたほうを見る。

「あぁ・・・やっぱりお前か・・・山野辺・・・」

なんだかもう余裕すら見られる主人公。(某海老寿司と同じだ)

「あぁー、なんか腹減ってんだけどさ、食い物ない?」
「自分の家で食えよなぁー。お前の分のメシ作るほどシャオは・・・」
「あ、翔子さん!今ちょうどお昼ご飯を作っていたところなんです。
 食べていかれますか?」

 翔子の声に気づいたシャオが太助の言葉を遮る。その少し汗ばんだ感じに
太助をまたもや真っ赤にさせる。シャオに釘付けになっている太助を見て
翔子は言った。

「はっはぁ〜ん、七梨ぃ。夏のシャオにメロメロってかぁ?」

 嫌味を全面に押し出した形で翔子は太助を見る。
・・・・にしても、メロメロは死語だと思う・・・。まぁいいや。

「なっ・・・ばっ・・・!!!」

『なに言ってんだ!ばか!』と言おうとしたが、あまりに突然のことだった
ので、動揺してしまい言葉にならず言い訳みたいになってしまった。

「ん〜?なにかね、七梨君。じゃあシャオが可愛くないとでもぉ?」
「うぐ・・・っ・・・」

 シャオが可愛くないわけがないのだが、なんと言っていいのか分からない。
話の内容がわかっていないシャオは不思議そうな目で太助を見る。

「・・・?どうしたんですか?太助様。」

今日はいい天気。健全な2人の中学生。リビングに二人っきり。
あぁ〜、なんていいシチュエーション・・・。

(どうしてこいつ(翔子)は毎回毎回俺の邪魔をするかなぁ!!)

太助が心の中で叫んでいると、階段の上のほうから声がした。

「だぁ――――もぉ!うっさいわねぇ!って・・・不良のおじょーちゃん
 じゃないの。なにやってんのよあんた、こんな暑いのに。」
「・・・あぁ・・・翔子殿ではないか。なにをやっておやれられりょ・・・」
「・・・キリュウ、あんたそんなに暑いんだったらさっさとリビング行ってりゃ
 よかったじゃないのよ。ただでさえ暑いの苦手なのにさぁ。」
「・・・いや・・・私はこれしきじゃくじけな・・・・りゃりゃりゃ・・・」

 そろそろキリュウが死んでしまいそうなので、とりあえず一行は
七梨家で一番快適だと思われるリビングに舞台を移した・・・。

―――――リビング―――――・・・

「はぁ〜〜、生き返ったぁ・・・」
「・・・キリュウはほんっとに慣れないよなぁ。」
「私は主殿のようにたくましくないのでな。」
「たー様はたくましいんじゃなくて、あたしの・・・むふふ・・・」

 ルーアンが勝手な妄想にふけっているのを見て、あきれる人、
なんでにやけているのかわからない人それぞれ二人ずつ。とりあえず、
太助は大きく深いため息をついた。

「・・・?」
「ルーアン・・・頼むからもうやめてくれ・・・」
「ルーアン先生って、まじに考えてそうだよなぁ〜?なっ、七梨っ!!」

 軽くウインクをしてくる翔子に、さらに深いため息をつきそうになるが、
必死でこらえて、ふと、こちらをじっと見る天使の存在に気づく。

(ああ・・・シャオ、君だけが、僕の天使、女神だぁぁぁー!!!)

とかなんとか思っているとき、いつもここにいない悪魔の姿に気づく。

「・・・あれ?山野辺・・・何しに来たんだ・・・?」
「お前なぁ、いまさらそーいうこと言うなよなぁー!う〜、まぁいい。
 あ、そんでな。今日来たのは、那奈姉のことなんだ。」
「那奈姉?・・・へぇ〜。」
「那奈殿がどうかしたのか?」
「ああ。なんか、オーストラリアで事故ったらしいんだよ。」
「事故ぉ!?!?!?!?」

 全員が口をそろえる。翔子も内心驚いているようだ。
その場にいる人を代表して、太助が口を開いた。

「どうして?なんでそうなったんだ?」
「あ・・ああ。なんでも車(?)に跳ねられたみたいで・・・」
「で、那奈姉なんだって?・・・ていうか。」
「あぁ?んだよ、七梨。」
「なんで那奈姉が事故に遭ったの、山野辺が知ってんだよ。
 うちにはなんの連絡もなかったのに・・・」
「へっへっへ。あたしと那奈姉の仲を知らねぇなぁ〜?
 実はさぁ・・・」

そこから翔子が話したのはこんな内容だった。

 文通をするようになった翔子と那奈。しばらく交わしていたが、
那奈から返事が来なかった翔子は、那奈がいると言っていたオーストラリア
の観光案内所に問い合わせて那奈が大きな事故にあったことを知る。
慌てて那奈に連絡をとると、「ごめん・・・太助に・・・」とだけ
翔子に伝えたらしい。


「ほう・・・」
(・・・どうも怪しいんだよなぁ〜。山野辺が文通?いや、それよりも
 なんでオーストラリア・・・?う〜ん・・・おかしいなぁ・・・。
 ・・・なぁんか話がうまく呑み込めないんだよなぁ・・・)

太助の心配をよそに、那奈と翔子の計画は順調に進んでいた。

―――――2ヶ月前―――――・・・

「なぁなぁ、翔子ぉ。翔子夏休みヒマぁ〜?」
「はぁ?や・・・別に・・・特に用事はないけど・・・」
「遊びに来ねぇ?あたしさぁ、夏中アメリカいることにしたんだよ。」
「ふぅん。いいんじゃない?シャオ達はもう誘ってあんの?」
「えあぁ〜?まだだけど。う〜ん、誘う・・・いや・・ん〜〜。」
「何、那奈姉誘わないの?」
「・・・今回は翔子だけってことじゃだめかぁ?」
「いや、別にいいけどさ。なんでまた自分の弟を誘わないの?」
「ちょっとなぁ〜。夏だろぉ?少しは動かないとさぁ、鈍っちゃうだろ?」
「つまりぃ。またもや作戦があるわけだなぁ〜?」
「さっすが翔子!あのさぁ、太助にこれ、渡しといてくんないかなぁ。」

そう言って一枚のチラシを翔子に渡した。

「・・・なにこれ。抽選で1組4名様にアメリカ旅行プレゼントぉ?」
「そそ。あたしが作った・・・友達に作ってもらったんだけどさぁ。
 これで、太助たちをアメリカに招待しようと思うんだ。」
「・・・・・なんでまたそんな事を・・・。てか、4人じゃまず・・・」

翔子の言葉を途中でさえぎり、那奈は話を続ける。

「実はさ、その日アメリカに家族全員集合することになってんだよ。
 母さんたちの結婚記念日で、祝ってやろうと思ってね。
 そんなこと言ったって、『いままで一回もやんなかったじゃん』とか言って
 太助のやつ、参加しなさそうじゃん?母さんたちには、夫婦旅行ってことで
 話すすめてもらってるし。」
「ふぅん。いいじゃん、それ!賛成するよ!」
「サンキュー、翔子!あ、そんでさ、あたしオーストラリアで事故ったことに
 しといてね☆太助が怪しむからさっ。」

那奈は最後にウインクすると、自分の携帯番号を教えて去っていった。

「・・・オーストラリア・・・何故・・・?」

そんな疑問が翔子に残ったが、那奈のアバウトな性格がうつったのか、母の

「翔子ー、お風呂空いたわよー?早く入りなさーい。」

 という声でその疑問は消え去った。そして、そのチラシを渡そうと
母に「明日は友達の家に行ってくる」と告げ、風呂場へ向かった。
このチラシが、とんでもないことを起こすとは、知る由もなかった・・・。


「・・・話はわかった。で、どこにいるんだ?那奈姉は。」
「え!?あ・・・あ〜・・・わかんない・・・くない!」
「はぁ?不良のおねーちゃん。何言ってんだか意味わかんないわよ。」
「わかるわかる。えと・・まだ入院中でさぁ。まいったよなぁ〜。
 あ、それより。これ。郵便受けに入ってたぜ。お前、送ってみれば?」

翔子はそう言って、太助に例のチラシを渡した。

「・・・アメリカ旅行・・・?1組4人だぁ?・・・なんでこんなもん。」
「いやぁ〜ん、たー様ってば、アメリカ旅行連れてってくれるのぉ〜?
 ルーアンめちゃめちゃうれしいぃ〜〜〜!!」
「・・・は?うわっ!ルーアンひっつくなってば!暑い!」

ルーアンがこう言い出すことも、計画のうち。

「ほら七梨、応募しない手はないだろう?」
「う・・・まぁ、当たるわけないんだし、だめもとで送ってみるかぁ。」

 おっしゃ!!!!翔子は心の中でガッツポーズを決める。
あとは、太助が確実にハガキを書いて出すのがわかれば・・・。

「あ、七梨、今書いちまえよ。あたし帰り道にポスト出しとくしさ。」
「あ、そうか?・・・わかった。」
「では私、ペンとハガキを取ってきますね。」
「・・・・・・・暑いのは嫌いだ・・・(byキリュウ)・・・」

架空の住所の裏に、住所、氏名、年齢、電話番号を書き込み、

「じゃあ、山野辺、これよろしくな。」
「ああ!まっかせとけって!宮内神社行って当たるように拝んどいてやるよ。」

と翔子に手渡す。むこうではルーアンがまだバカなことをやっている。

(あれ・・・4人てことは・・・・・家族+精霊・・・?)

そんな那奈に聞けなかった疑問が、再度翔子の脳裏をよぎったが、
(ま、いいか。)ですませることにした。

―――――数日後―――――・・・

「太助様、お手紙ですわ。」
「え・・・俺宛てに?誰だろ。またオヤジかなぁ・・・。」

くるっと手紙を裏返し、差出人を見るが、書かれていない。

(なんかいかがわしげだなぁ〜。いいのかぁ?あけて。)

一応自分宛てということもあって、あけてみることにした。

「七梨太助様。このたびは我がSHINA観光の旅の抽選会に
 ご応募くださいまして、誠にありがとうございます。
 厳正なる抽選の上、○月×日△曜日の18時、羽田発アメリカ行きの
 チケットと宿泊チケットを送らせていただきます。旅費の1/3を後ほど
 下記の口座に振り込んでいただきます。
 良い旅を、どうぞお楽しみください。SHINA観光 代表 八林 志菜」

 へぇ・・・。ていうか、これ代表じゃなくて社長じゃないのか?ま、いいけど。
つうか、旅費の1/3取るのかよ。無料だと思ってたのに・・・。
などというつまらないことを考えたあと、

「えぇぇ―――――――――――!?!?!?!?!?」

と、死ぬほど大きな声で叫ぶ。

「どうなされたんですか?太助様!!」
「どーしたのよ、たー様!!」
「何があったんだ?主殿。」
「あ・・・あ・・・あ・・・・」
「あ・・・?「あ」とはなんだ。・・・主殿?」
「当たったんだよ・・・」
「何が当たったの?ちょっとたー様大丈夫?」
    「・・・アメリカ旅行が・・・当たった・・・・当たったんだよっ!!」
「えぇ―――――――――――――――――!?!?!?!?!?!?!?」

 全員のけたたましいとも言える声が七梨家に響き渡る。
太助が耳をふさぎながら3精霊に問いかける。

「そういえば・・・知ってんのか?アメ・・・」

太助が言い終わらないうちに、それぞれが口を開く。

「あめりか・・・ってどこにあるんでしょうか・・・」
「あめりかってぇ・・・日本語?あたしは知らないわよ〜?」
「ふむ・・・日本には理解し難い言葉があるのだな、主殿。」
「ああ・・・やっぱり・・・」

 涙を流しながら、太助は地図帳などを持ってきて説明をした。
説明と言っても、どこにあるか、それだけなのだが・・・。

「いいかぁ〜?アメリカは、この辺にあって、飛行機で・・・まぁ
 10時間くらいはかかるのかなぁ・・・わかったか?」
「・・・はぁ〜・・・遠いんですねぇ・・・。」
「なんでそんな遠いのよっ!ていうか、飛行機って何?」
「短天扇に乗って行けば、もう少し早く着かないか?」
「もぉいいです・・・」

 太助はあきらめた。(どーせわかってくれないさ・・・)3精霊に背を向けて
太助は旅費のことを考えた。

「もしかして・・・4人・・・え?え・・・だって・・・旅費の1/3・・・?
 シャオたちを支天輪の中に入れれば、1/4ですむ・・・ハズ・・・」

 そして、ようやく太助は気づいた。
俺って・・・損するハメになってる――――――――――――?


―――――旅行当日―――――・・・

「いやぁーん、たー様ぁ。ルーアンこんな重いの持てなぁい。」
「俺だって重いんだよっ。少しは我慢しろっ。」
「たー様冷たぁい。ルーアン悲しい〜〜〜。」
「・・・万象大乱・・・」

紀柳の呪文とともに、全員の荷物が小さくなった。

「おぉー。紀柳、サンキュな。」
「・・・私は・・・ぁ・・ぅ・・・」

紀柳が顔を赤くして下を向く。ああ見えて紀柳は結構シャイである。

「あれが搭乗口ですわ、太助様。」
「あ、ああ。じゃあ、チケット渡すからな。」

―――――機内―――――・・・

「あ〜ぁ、疲れたぁっ。」
「ルーアン殿、なにをしてそんなに疲れたんだ?」
「相手にしなくていいよ。どーせ荷物が重かったんだろ?」
「そーよっ!なんでこんなに重いのよぉぉ!!!!」
「アメリカ行くのに大福が必要か?ヨモギ餅や薄皮饅頭が必要なのか?」
「やぁん、たー様ひどぉーい。日本が懐かしくなるでしょぉ!?
 そしたら、いずピーのお母様特製のお饅頭が食べたくなるでしょぉ!?」
「ルーアン殿・・・それは何か違う気がしないか・・・?」
「なにをぉ〜ぅ!?」
「ぉ・・・お客様、お静かに、お静かにぃっ!」

 客室乗務員に注意されて尚五月蝿いので、太助は他人のフリをする。
そして、窓から外を見て、どこか切ないような、でも微笑んでいるような
そんな表情のシャオを見つけた。



「シャオ・・・?・・・ごめん、紀柳。席替わってくれ。」
「いいが、何故・・・?・・・ああ、そういうことか。」

 太助の心情を察したのか、紀柳はそっと太助の耳元で
こう囁き、席を替わった。

(やはり、主殿は優しいな・・・)

太助は、紀柳に微笑み、そして目線をシャオにうつす。

「シャーオ。どうしたんだ?外ばっか眺めて。」
「太助様・・・。」
「ん?どうした?」
「ここは・・・本当に素敵な所ですよね。」
「・・・そうだな。」
「・・・翔子さんが居て、たかしさんが居て、呼一郎さんが居て、
 香織さんが居て、出雲さんが居て、ルーアンさんが居て、紀柳さんが居て、
 ・・・私が居て太助様が居る。みんなが居て、今の私があるんです。
 親切で、優しくて、頼れる人たちのおかげで、私がここに居るんです。
 本当にここは、とても素敵で、そして安らげる場所ですね・・・。」
「シャオ・・・。」

そして、太助はふっと微笑み、シャオにこう語りかけた。

「今の俺があるのも、シャオたちが居たからなんだよな。そう。俺は、
 それが、すごくうれしいんだ。こうして今シャオと話していることが
 すごく愛おしいと思えるんだ。もし、親父が支天輪を送ってこなければ、
 もし、あのままシャオが支天輪の中に居たら、もし、今までの出来事が
 起きなかったら・・・。俺たちが、今ここに居るのは、全て偶然なんだ。
 偶然の積み重ねが、俺たちの人生なんだ。そして・・・。」
「それをきっと、「運命」と呼ぶんでしょうね・・・。」

 互いを見つめあい、窓から入り込む夕日が、2人を幻想的に、
優しく包み込んだ・・・・・・

「ちょっと、シャオリン。あたしのたー様となに2人の世界に入り込んでんのよ。
 たー様ぁっ!あたしの存在忘れてなかったぁ!?」
「・・・・」(畜生・・・いい雰囲気だったのに!少しは気ぃきかせろよなぁ。)
「ルーアンさん、紀柳さん、ここに居て下さって、ありがとうございます。」

シャオは、ストレートに自分の気持ちを言葉にしてルーアンと紀柳に伝えた。

「・・・?どうしたんだ、急に。」
「そーよ。・・・なんか照れるじゃない。」

 ふん、と言って、ルーアンはそっぽを向く。しかし、その顔が赤くなって
居るのは、その場に居た人全員がわかっていた。
まもなく当機は目的地、J.F.ケネディ空港に到着します・・・・

―――――空港内―――――・・・

「たー様・・・ここは・・・どこ・・・」
「だから、アメリカだよ。」
「だって・・・顔!顔のつくりが全然違うじゃない!」
「そりゃぁ。まぁ、いいや。」
「空港まで誰か来てるはずなんだけどなぁ・・・」
「・・・主殿・・・・・あれではないのか・・・?」
「・・・!!!!」

太助たちの視線の先に現れたのは・・・・。

「おーい!!!太助ぇ――――!!」
「那奈姉!(那奈殿、おねー様、那奈さん)」

那奈は太助たちのほうへ歩み寄ってくる。

「・・・なにやってんだぁ?」
「お前、それがたった今会ったばかりの姉に対して言う言葉かぁ?
もっとこう、「会いたかったよ!」とか、「久しぶりだね!」とか・・・」

那奈は一人で抱擁の格好をする。それをうまく交わして、話を続ける。

「や、そうじゃなくて。入院してるんじゃなかったのか?」
「あぁ、翔子に聞いたのか。・・・実はさぁ。あれ、嘘なんだよねぇ。」
「はぁ?・・・嘘ぉ?」

真面目な顔をして、那奈は太助に聞く。

「太助、お前、今日が何の日だか覚えてるか?」
「・・・親父たちの結婚記念日だろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」
「なんだよ。違ったっけ。」
「ぉぉぉぉ覚えてたのかぁぁぁぁ!?!?」
「そりゃぁ、自分の親の結婚記念日くらい・・・」
「・・・じゃぁ、もう全部わかってるわけだな?」

太助は深く頷く。そして、ひとつ質問をする。

「なんでうちの親の結婚記念日に、こいつら(ルーアンを指差して)がいるんだ?」
「なんでって・・・シャオや紀柳は家族だろ?」
「那奈姉・・・そうだよな。家族だもんな。」
「ああ!」

そして、後ろから聞き覚えのある声がした。振り返ると、そこには懐かしい人。

「太助!那奈!」
「・・・おふくろ・・・」
「行ってやれ、太助。」
「なんかさんざん言われてたけど・・・。ほら、たー様!」
「主殿、久しぶりなのであろう?」
「太助様・・・お母様たちが、待ってますわ。」

太助は走り出した。まっすぐに、母たちの元へ。

「おふくろっ・・・親父っ・・・」
「太助・・・」
「いやぁ〜、はっはっは。太助は甘えんぼうだなぁ〜。」

顔をあげ、両親の顔を見て、はじめてこの言葉を言う。

「結婚記念日・・・おめでとう。」


―――――日本―――――・・・

「あぁ〜・・・。なんか夢のようだったなぁー・・・」
「よかったですね、お母様たちにお会いできて。」
「・・・そうだな。いい夏の思い出になったな。」
「はい!」

 その日の夜、シャオは夜遅くまで日記を書いていた。
アメリカに持って行くのを忘れたので、まとめて今日の分として書く。

「ねぇ、離珠・・・。太助様、あの時泣いていたけど、あの涙は
 きっと・・・うれしかったから・・・なんだよね。」

離珠は、シャオににこっと笑いかける。

「よぉーし!じゃあ、今日の日記の題名は・・・・」

 題名を書き込み、日記を閉じる。その時、シャオは心から幸せだと思った。
眠りにつくシャオの横のその日記・・・そう。今日の日記の題名は・・・


ある夏の日の思い出・・・


終わり



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